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眼鏡とオタクとスケートボード第14章 ~ついにNEWTYPEへ~

眼鏡とオタクとスケートボード

著者:岡田晋



眼鏡とオタクとスケートボード第14章 ~ついにNEWTYPEへ~


「あ~、お前ま~ま~上手くなったじゃね~か。どうしてもって言うならNEWTYPEに入れてやっても良いけど。」
あまりにも上からすぎる程、上からのその言葉に僕は強い怒りにも似た反発を隠す事が出来なかった。

二俣川での初優勝の翌日、僕は真っ先にエムスミへと向かった。P.I.C.に移籍した後も、エムスミは正式なスポンサーを名乗れなかったにも関わらず、変わらずどころかそれ以上に僕の事を気にかけ応援してくれた。僕はそんなエムスミのみんなが大好きだった。とにかく、みやこさんに優勝の報告がしたい。ただそれだけの気持ちが駅に向かう僕の足取りを早くさせていた。

「みやこさん! 昨日の大会、優勝しましたよ!」

お店に着くなり僕は息をあげたままいつもの様にレジに座るみやこさんに向かいそう伝えた。

「え~~!! 本当に!?」

みやこさんはそう言うと、今まで見たテンションの中でも一番高いテンションで椅子から立ち上がると満面の笑みで僕を迎えてくれた。

「すごいじゃ~~ん! 遂にだね~! お祝いしなきゃだね!」

元々、人見知りの僕はお祝いとか誕生日会など、人を祝うのは得意だったがいざ自分が中心に立たされるのはとても苦手だった。みやこさんのその言葉にもそんな僕の人見知りレーダーがいち早く反応した。

「いや、お世話になってるのは僕の方なんで気持ちだけで十分っす! とにかくみやこさんに報告したくて。あっ! お、俺、今日も滑りに行くんで、コレで! あの、とにかくありがとうございます! これからも頑張るんでよろしくお願いします!」

なんだかわからないが急に恥ずかしくてたまらなくなった僕は、焦る様にみやこさんにお礼を言うと早々にお店を出てしまった。そんな突然慌てふためきバタバタ出て行く僕にみやこさんはキョトンとしていたが、駅に向かう僕に店先から、

「晋~! 報告してくれてありがと~! これからも頑張ってね~~!!」

と、笑顔で手を振り送り出してくれた。

そんなみやこさんから突然僕の自宅に連絡が来たのはその日の夜の事だった。

「もしもし~、晋? 今日は来てくれてありがとね! 早速なんだけどさ~、さっきパパに晋の優勝の話したらAIRWALKの人に晋をスポンサーしてくれる様に頼んでくれるって言ってるの! 晋、AIRWALK好きでしょ!? どう? 興味ある?」

パパとはみやこさんの旦那さんの事で、元プロサーファーでサーフ系の代理店を経営している福田さんの事だった。あまり顔を合わす事は無かったが、彼もまた陰ながら僕の事を応援してくれていた。

そして、当時のAIRWALKと言えばベロシティーやエニグマの第一次ブームが落ち着き、いよいよ第二次ブームに火がつく直前の時期で、僕も個人的によくエムスミでAIRWALKを購入し徐々にその魅力に魅了され始めている時だった。そんな僕のハマり具合をみやこさんはしっかり見てくれていたのだろう。優勝した僕にとってみやこさんや福田さんのその提案はこの上ないプレゼントだった。

「本当ですか? 興味あります!!」

「良かった~~!! 正式に話がまとまるまで少し時間がかかると思うからとりあえずうちのお店から一足持っていきなよ!」


それはビックリする程早い話だった。そして話が決まるまでエムスミからAIRWALKを持っていって良いと言うみやこさんの口調には「絶対付くから大丈夫」と言う不思議な確信が感じられた。

そんなみやこさんの確信通り、1ヶ月も経たないうちに本当にAIRWALKの代理店から直接靴が送られてくる様になる。優勝をキッカケに僕はAIRWALKの正式なライダーになる事が出来たのだ。そしてちょうどこの頃から、ことあるごとに福田さんから彼の代理店に呼ばれるようになるのだが、その先に僕の人生を大きく変える人物との出会いが待っているとは夢にも思っていなかった。


みやこさんから連絡を貰った翌日、僕は早速エムスミにAIRWALKを貰いに行った。いくつかある中から最新のモデルを選ぶとすぐさまボロボロの靴と履き替え、僕は颯爽と等々力公園に向かった。

尚にAIRWALKの出来事を報告しつついつもの様に丸子橋を抜け等々力公園に向かっていると尚がふと何かに気づいた。

「あれ!? 徹くんじゃない?」

遠目から普段見かけないスケーターの姿が噴水広場に居るのが見えたが、そのスケーターの発するオーラとプッシュのシルエットは離れた場所からでも一目で徹くんだとわかった。僕らは高まりを抑えられないまま急いで噴水広場までチャリを鬼コギした。

「お~晋! 元気か? トミーに誘われて初めて等々力来たけど、ヤバいねここ。」

そう、徹くんはジャブ池で僕をトミーに引き合わせてからも時折トミーと連絡を取り合っていた。等々力ローカルもNEWTYPEの徹くんが地元のローカルスポットに現れた事に興奮を隠せない様子だった。「NEWTYPEが等々力公園に来た!」それは当時の僕らにとってとても大きな事件だった。それ以降、徹くんに続き赤地くん、浦さん等、NEWTYPEの中でも比較的等々力に近い世田谷ローカルのみんなが等々力によく滑りに来るようになった。等々力ローカルとNEWTYPEの距離はこの辺から急速に近くなり始めていた。

そして、それはちょうどNEWTYPEの2作目『Phuckable Peeples』の撮影が佳境に入ろうとしている、そんな時だった。

NEWTYPEは、徹くんや赤地くん、浦さんの世田谷を拠点に活動をするメンツと、ルパンやカンポくん、オダッチと言った多摩を中心に活動するメンツが、新宿のジャブ池を中心に集まりルパンを筆頭にまとまったチームで、淳之介は当時新宿が地元だった為、そのどちらにも精通した雰囲気を持ったスケーターだった。そして、NEWTYPEの中でも多摩地区と世田谷地区のスケーターの雰囲気には当時から大きなノリの違いがあるように見えた。簡単に言えば、世田谷はフラットでオープン、多摩は実力主義だが微妙に縦社会で閉鎖的。それでも淳之介を中心にそんなノリの違う2つの流れが絶妙なバランスで混ざりあい、まるでタウカンのマークの様に陰と陽が一体となった完璧なチーム構成。それこそがNEWTYPEの魅力でもあった。

しかし、僕にはどうしてもルパンを筆頭にしたストイックすぎる程ストイックで、かつ排他的な多摩地区のノリを受け入れる事が出来なかった。ジャブ池で滑っていた時もそうだったが、ルパンは先輩風をふかしながらいつも上から僕の事を小馬鹿にしていた。カンポくんやオダッチも個々ならとても優しいお兄さんだったが、ルパンと揃うとなんとも言えない面倒くさい先輩達に感じる事がしばしばあった。

NEWTYPEには憧れる。みんな最高にカッコいい。でもその部分だけはどうしても僕には苦手な部分だった。好きだけど嫌い......、それはなんとも言えない青臭い気持ちが混ざりあった複雑な感情だった。等々力のノリはかなり世田谷側のNEWTYPEのメンツと近いものだった為に、僕らの仲が近くなるのはごく自然の流れだったのかもしれない。しかし、僕らが近づいたのはNEWTYPEのほんの一側面でしかなかった。

そんな世田谷側のNEWTYPEとの交流がしばらく続いたある日、僕らは目を疑う様な光景を目にする事になる。いつも通り等々力で滑っていると、向こうから一人の背の高いスケーターが日本人とは思えない独特のバネをプッシュから十二分に溢れさせながら近づいて来た。

「え!? まさか......、カンポくん?」

驚く事に、多摩地区側のNEWTYPEの一人である、カンポくんが突然等々力に現れたのである。世田谷側のNEWTYPEのみんなとは等々力ローカルもかなり打ち解けていたが、やはりみんなの中にも多摩地区側のNEWTYPEに対する距離と、なんとも言えない入り込んではいけないような独特の壁は今だ拭えていなかった。そんな中での突然のカンポくん単独での登場に僕も含め、等々力ローカルのみんなも緊張と動揺を隠せなかった。

「晋! 久しぶりだね! 今日仕事休みでさ、徹や赤地からここの話聞いてて思わず来ちゃった! お邪魔しても良いかな?」

そんなカンポくんのフラットな姿勢に僕は正直面食らった。今までは何処であってもルパンやオダッチと「俺等のローカルスポットだぜ!」感を満載にしている彼らしか見た事が無かっただけに、肩書きを抜きに一人のスケーターとして知らないローカルスポットにお邪魔する彼の姿に、初めて人間らしい瞬間を垣間見た気がした。もしかしたら、僕らの方も彼の事を色眼鏡で見すぎていたのかもしれない。そんな事すら感じさせる程、彼は心を開いて僕らに接してくれた。

等々力ローカルのみんなもそんな雰囲気を感じ、少し安心した様子でカンポくんに不器用ながらも近づき滑り終わる頃にはすっかり打ち解けていた。

その後、オダッチもふらっと等々力に現れみんなとのセッションを楽しむようになった。元々、オダッチはどんな状況もこだわり無く楽しめる人柄で多摩地区側の独特なノリも世田谷側のノリもたいして気に留めている様子も無かった。

気が付けば等々力公園は彼らの中でも最もホットなスポットになりつつあった。
僕らにとってNEWTYPEのイメージも彼らとの距離も少しずつ近づいている様に思えた、そんなある日の午後だった。

いつもの様に等々力公園で滑っていると徹くんと赤地くんが現れた。その頃にはそんな一日も僕らにとってそう驚く事もない普通の出来事だった。しかしその日が僕らにとって今でも忘れられない一日になろうとは誰も予想していなかった。

少し時間を置いて駐車場から3人のスケーターがコチラに近づいてくるのが見えた。まさかとは思ったがオダッチ、カンポくんを挟んだ真ん中でだるそうな表情を全開にしてコチラに向かってくるのは紛れもなくNEWTYPEのリーダー、ルパンだった。

それに気づいた瞬間、僕らの緊張は一瞬にして高まった。やはりルパンの登場は僕らにとっても特別なものだった。そんな僕らの緊張をわかってやっているのか、彼はプッシュすらせず必要以上にだらだらと噴水広場までやってきた。カンポくんやオダッチもローカルに軽い挨拶はしたが、彼らの雰囲気は個別で等々力にやって来たときのそれとは明らかに違っていた。彼らが醸し出す雰囲気は以前、僕がジャブ池で見た周りが気を使う程の威圧的かつ排他的な雰囲気だった。しかも、驚く事にルパンは誰とも目を合わることなく挨拶もせずに噴水広場の見渡せる一番角にドンと腰を下ろした。

周りの等々力ローカルはその雰囲気と姿に完全にビビってしまった様子だった。
僕はそんなルパンの行動になんとも言えない怒りを感じた。

(なんだよ! ローカルに挨拶もしね~のかよ!)

徹くんや赤地くんもそんな空気に板挟み状態でしばらく落ち着きをなくしていたが、彼らが僕ら側の気持ちを察し、変わらず滑り続けてくれた事だけが唯一の救いだった。

1時間程たった時にはルパンの登場による異常な空気も軟化し、カンポくんやオダッチも含め少しの違和感を残しつつも、僕らは以前同様にセッションしていた。だが、1時間たっても2時間たってもルパンは僕らとコミニケーションをとるどころか滑る気配すら見せなかった。

別に俺等と仲良くなる気もないんだろうな。そんな風にすら思い始めた時だった。突然、ルパンがカンポくんに目配せをし自分のところに呼び寄せたと思うと続けてオダッチを、それをキッカケに急にNEWTYPEのみんながざわめき始めた。徹くんや赤地くんもそれを感じ今までに無い程緊張した表情になった。しばらくすると遂に徹くんと赤地くんも呼ばれた。

その時、僕にはそれが一体何を意味するのかまったく分からなかったし、ルパンを筆頭にNEWTYPEのほぼ全てのメンバーが等々力公園に現れたその真意すら掴めていなかった。

その頃には、僕らも彼らのそんな一挙手一投足にいちいち反応してたら身が持たないと思い、あまり気にせずに滑り続けていたが、等々力ローカルの一人が少し焦った様子で滑り続ける僕の足を止めた。

「晋! 徹くんが呼んでるぞ!!」

振り返ると緊張した面持ちで手招きしつつもこちらに近づいてくる徹くんの姿が目に入った。

「晋、ちょっと良いか?」

今まで見た事もない程真剣な徹くんの様子に僕は初めて今日が彼らにとって、いや僕にとってもどんな日なのかを直感的に察した。そしてこわばった表情を崩さない徹くんに促されるまま、僕は案の定ルパンのところまで連れて行かれた、それと同時にまるで図ったかのように今までルパンのそばに居たカンポくんとオダッチがすっと身を引いた。その状況に僕の徹くんに呼ばれた時に感じた直感は確信に変わり一気に緊張感がこみ上げて来た。
一体どんな一言が飛び出してくるのだろう、思わず息を呑む僕に対して、ルパンは相変わらず微動だにせず公園の角にどっしり腰を下ろしたままだった。そして次の瞬間、挨拶も無しにルパンはだるそうな表情のままこう言った。

「あ~、お前ま~ま~上手くなったじゃね~か。どうしてもって言うならNEWTYPEに入れてやっても良いけど。」

そのあまりにも上から過ぎる程上からの言葉に僕は強い怒りにも似た反発を覚えた。いくらなんでもルパンのその言い草を僕は素直に受け入れる事が出来なかった。

「いや、ちょっと考えさせて欲しいっす。」
無意識のうちに僕の口から飛び出したのはそんな一言だった。

「おい! 何だよ晋! ずっとNEWTYPEに入りたがってたじゃんか?」
僕の意外な一言に徹くんは焦って思わずそう叫んだ。

「あ、うん、でも今友達とチーム作っちゃってるからみんなにちゃんと話したいんだ。だから1日だけ待ってくれないかな。」

今考えるとそれは、本当の理由でもあり、それと同時にルパンの態度に対する僕の精一杯の抵抗だったのかも知れない。

「あ~別になんでも良いけど、早く決めてくんね? 俺等、ビデオ撮り佳境だかんさ~。入ってもそれなりのパート作れね~んなら意味ね~し。」

ルパンはさらに僕の反発心を煽る様にそう言うとカンポくんを呼び寄せさっさと別の話を始めてしまった。

ルパンの元から離れると徹くんが心配そうな表情で僕に話しかけてきた。

「晋! ルパンはあんな言い方だけど、俺や赤地くんはずっとお前の事押しててやっとカンポくんやオダッチも認めてくれたんだ。今からでも晋なら良いパート撮れるんだからチャンスだろ! 一緒にやろうぜ!!」

その言葉を聞いて僕はほんの少しだが熱くなった頭が冷めた。徹くんや赤地くん、浦さんはずっと僕のNEWTYPE加入をルパンに押してくれていた。そんな中、2作目の撮影中にそんなに言うならと言う事できっとルパンの指令でカンポくんやオダッチが等々力に僕の偵察がてら滑りに来ていたのだろう。僕はこの時、なんで突然NEWTYPEが等々力に来るようになったのかを本当の意味で理解した。

ただ、僕の頭はそれでもまだ混乱していた。一番気がかりだったのはトミーや等々力ローカルのみんな、何より666のビビが果たして納得してくれるのかだった。

一通りの話が終わり、みんなのところに戻ると一斉にみんなが僕のところに駆け寄って来た。

「なんの話してたんだよ? NEWTYPEに誘われたのか?」
「晋! NEWTYPEに入るのか?」
「どうすんだよ! 晋!!」

みんなからの質問攻めにさらに僕の頭は混乱した。とりあえず、考えさせてくれと答えた事とビビに話さなきゃと言う事だけをみんなに伝えたが、みんなの意見も「入った方が良い!」と言うヤツもいれば「ルパンはなんか気にくわね~。」と言うヤツ等、とにかく僕と同様、いやそれ以上に混乱していた。結局、ハッキリした答えもでないままその日は終わっていった。

そしてルパンも最後までローカルに挨拶しないまま、一度も滑る事も無く帰っていった。

そんなとんでもない出来事が襲った帰り道、尚とチャリをこぎながらも僕の頭の中はNEWTYPEと666の事で一杯だった。同じ666の尚に相談してみても、もともとそう言うものにあまり興味の無い上に人のやる事にいちいち口出しする様な性格ではない彼は、

「いや、晋がやりたい様にすれば良いんじゃない。俺は別にどっちでも。」

と言うだけで僕の判断を左右させるような事は何一つ言わなかった。少し心もとない気はしたが尚の言葉が僕の気持ちを楽にしてくれた事だけは確かだった。そして家が近づき、尚と別れた頃には周りの色々な意見や不安は消え不思議と僕の中には本当の気持ちだけが浮き彫りになっていた。

ルパンのあの態度は確かに気に食わない、でもあのNEWTYPEに入れるチャンスなどきっとこの先無いだろう。NEWTYPEをそれまで外から見ていた僕らにとってNEWTYPEの存在感は圧倒的だったし、NEWTYPEに新しいスケーターが入る事なんて相当な事がない限りまずあり得ない、と言うのが僕も含め当時本気でスケートしていた全国のスケーターの見解だったことは間違いなかった。それ程までにエッジの効いた台風の目に新しいスケーターが加入する、そしてそのチャンスが眼鏡野郎のこの僕に来ている事自体とんでもない事だった。それに、ルパンの言い草に思わず666の事を出したが、結局等々力ローカルと出会って以降、ビデオ撮りはみんなと続けていたもののすでに等々力ローカルと言うくくりに吸収されチーム単位の何かしらの目標や活動らしき活動は何一つしていなかった事も紛れも無い事実だった。

結局、僕にはNEWTYPEに入ると言う大きなチャンスにチャレンジするのかしないのかと言う選択しか残っていなかった。そして、そんなチャンスに後ろ向きな答えを出すなんて事は当時の僕にとってはスケートを辞めるのと同じ意味を持っていた。

「よし!!」

自宅でしばらく考えた僕は覚悟を決めて受話器を取った。

「お~! 晋、早いね! どう!? 決まった?」

徹くんは、等々力で会った時より落ち着いた様子で電話に出た。僕も手短にNEWTYPEに入る旨を伝えると、彼の電話のトーンもより一層安堵したものに変わった。

「そうか、良かった! じゃあ今からすぐにルパンには俺から連絡しておくよ! それから、もうNEWTYPEのビデオ撮りも佳境だから晋気合い入れてけよ! カメラは一台世田谷CREWで持ってるから俺たちが撮ってやるよ!」

NEWTYPEでのビデオ撮り、それはまさに夢の様な話だった。そして、そんな夢心地に浸る間もなくリリースに向けて僕の初めての撮影が始まる事となる。翌日、等々力で撮影する約束をして僕らは電話を切った。その瞬間から、もう僕はNEWTYPEの台風の目の中に飛び込んでいた。しかし、僕はこの時、人として最も大事な順番を間違えてしまった事に気が付いていなかった。そしてそれに気がついたのは徹くんと電話を切ったまさにその直後の事だった。

数分も経たないうちに今度は僕の家の電話が鳴った。受話器を取ると、明らかに焦り気味のビビが挨拶も抜きにこう言った。

「な~、晋! さっき等々力の奴らから聞いたんだけど、お前NEWTYPEに入っちゃうのかよ!」

僕はこの時初めて自分が犯した大きなミスに気がついた。あれほどルパンに反抗したにも関わらず、僕は尚にしか相談せず、666のもう一人の仲間であり名付け親であるビビに一言も相談しないまま徹くんに返事をしてしまったのだ。

「あ、いや......、実はそうなんだよ。」

歯切れの悪い僕にビビは最悪のパターンを直感したかの様に間髪いれずに切り返してきた。

「で? どうすんだよ!!」
そんな彼に、僕も下手なウソや順番を間違えた事を上手くごまかす様なこそくな言い訳をする事など出来るはずがなかった。

「うん、俺......、チャンスだと思うしNEWTYPEに入ることにしたよ。」

僕がNEWTYPEに入る事を決めたと言ったとたん彼の焦りは一気に怒りに変わった。

「は~!? 何だよそれ!! なんの相談もなしにもう決めたって事かよ! ふざけんなよ! お前のせいで俺の計画台無しだよ!」

もともと怒りっぽい性格のビビだったがこの時の彼のキレっぷりはハンパじゃなかった。ビビはまず僕が相談も無しに決めた事に何より怒っていた。後半の「お前のせいで俺の計画台無しだよ!」は彼の不安の現れからくる叫びだったに違いない。ただ、この頃のビビは受験勉強なのかなんなのか分からないが何かにつけては等々力に顔を出さなくなり始めた頃で、毎日の様に等々力ローカルと滑る僕や尚との間にはスケートに対するモチベーションの差が確実に生まれていた。彼の中には、スケートに対してやる気が出ないが、自分がスケートから離れている間にみんなが追いつけない所まで行ってしまうのだけは嫌だと言うスケーターなら誰しもが経験するジレンマと不安が渦巻いていたに違いない。

まさにそんなタイミングで飛び出した僕のNEWTYPEヘの加入の話は、彼にとっては絶対に起きてほしくない不安がまさに現実になってしまったと言う感覚だったのだろう。

とにかく、不安と怒りに混乱する彼にまず相談しなかった事を謝り、それからちゃんと考えた事や、事実上とくに計画も目標もなく、ビビもあまり滑りに来ないなかで解散状態の666の事を、出来るだけ彼を刺激しないような言い方で伝えた。

僕の思いを全て話し終えると、彼も大分冷静さを取り戻していた。ただ少しキレすぎたゆえに結局最後まで素直になりきれない感じが否めなかったが、それもまたビビらしくて僕も少し安心した。

「あ~、ま~俺もなんか最近あんまりこう......、がっつりじゃないっていうか、なんつ~か......、だからま~、晋がNEWTYPEに入ったらやべ~とは俺も思うから、映像必要だったら言ってくれよ。でも大事な事はちゃんと俺には言ってくれよな! 今まで一緒にやってきたんだから......。」

彼のそんな不器用な言葉でも僕には十分だった。改めて最後「相談せずに本当にごめん!」と謝り、「もっとビビも等々力来いよ!」と誘ったが彼から気持ちの良い返事は帰って来なかった。そんなビビに少々の心配は残ったが、必ず戻って来ると信じて僕は受話器を置いた。

とにかく、心配していた周りの事はとりあえず片付いた。僕はいよいよNEWTYPEの一人として2作目『Phuckable Peeples』の撮影に参加する事となる。

翌日約束通り等々力公園に行くと徹くんと赤地くんが早い時間からすでに撮影をしていた。当時、NEWTYPEにはカメラマンと言うものは存在していなかった。メンバー全員がそれぞれを撮り合いながらフッテージを溜めていくスタイルは、666の時に僕らがやっていた事と変わりがなかったうえに、等々力でそれまで死ぬ程撮影していた僕にとってフッテージが溜まっていくのにそう時間を要する事はなかった。ただ、当時の僕は中学生だった為、当然門限があり、いつも夜中まで撮影するNEWTYPEのみんなと撮影を共に出来るのは昼間だけで、その大半は等々力公園での撮影だった。もっと一緒に動きたいと思いながらも、そんな短い間でも彼らのスキルと撮影のノウハウは僕にとって大きな刺激だった。

こうして中3の夏休みを全てNEWTYPEの撮影に費やした僕は、なんとかみんなに追いつき締め切りまでにフッテージを残す事が出来た。最初のうちは色々と口出しをして変わらず僕の反骨心を煽っていたルパンも、フッテージが溜まり始めると徐々に何も言わなくなった。何がなんだか分からないながらも僕の初めてのNEWTYPEの撮影は無事終了した。そして最後のトリックにはルパンにお願いをしてビビが撮ってくれたノーリーヒールのノーズスライドを入れてもらった。それは夏休みに入り、さらに等々力に顔を出さなくなった彼に出来る僕の精一杯のメッセージでもあった。

短い時間ながら出来るだけの事はやった。後はもうリリースを待つだけだ。撮影後、リリースまでの時間はまるで夜明け前の静寂にも似た静かな時間だけが流れていた。そしてその時間、不思議と僕の頭の中にはスケートに出会ってから今までのたくさんの経験と思いが蘇っていた。

スケートボードと出会い、スケートの世界に魅了され、同じ気持ちの仲間と出会い、スポンサーが付き様々な変化と成長を経て、遂に大会でも優勝した。だが少しづつ名前が知れ渡り始めたとは言え、僕の影響力など良くて関東の一部、しかもこの眼鏡面は尖ったスケーターには到底受け入れがたいものだっただろう。

それでも僕は、遂に憧れていたNEWTYPEに加入し、いよいよ全国に向け自分のフッテージを披露するところまで来る事が出来たのである。それはスケートを初めて1年半の短いようで異常なまでに濃い怒濤の様な時間だった。

しかしこの後、NEWTYPEのビデオのリリースと共に、これだけ前に進んだと思っていた自分の世界が外から見ればどれほど狭い世界だったのかを良くも悪くも強烈に知らしめられる事となる。そして、そんな新たなフィールドに戸惑う暇もなく、さらに僕の運命はある一人の外国人との出会いにより自分でもついていけない程のスピードで展開していこうとしていた。

遂に憧れのNEWTYPEに加入し、いよいよ眼鏡野郎のフッテージが全国に拡散されようとしていた中学3年の夏の話である。

つづく



※14章以外のコラムはこちら

眼鏡とオタクとスケートボード第1章~幼少期~・~第2章スケートボードとの出会い~

眼鏡とオタクとスケートボード第3章~眼鏡(オオカミ)少年

眼鏡とオタクとスケートボード第4章~本物のスケボーと大矢兄弟

眼鏡とオタクとスケートボード第5章~ローカル意識とプロスケーター~

眼鏡とオタクとスケートボード第6章〜ギブスと眼鏡のシンパシー〜

眼鏡とオタクとスケートボード第7章〜初めての大会〜

眼鏡とオタクとスケートボード第8章〜大切な事とNEWTYPEの衝撃〜

眼鏡とオタクとスケートボード第9章〜初めてのスポンサーとビデオ撮り〜

眼鏡とオタクとスケートボード第10章 〜目まぐるしく進む展開〜

眼鏡とオタクとスケートボード第11章 〜少しでも高いレベルへ〜

眼鏡とオタクとスケートボード第12章 ~等々力ローカルと究極の裏技~

眼鏡とオタクとスケートボード第13章 ~仲間と一丸となって~

眼鏡とオタクとスケートボード第15章 ~海の向こうから来た男~

眼鏡とオタクとスケートボード第16章 ~一変した環境と注目の裏側~

眼鏡とオタクとスケートボード第17章 ~希望の光~
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