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眼鏡とオタクとスケートボード第13章 ~仲間と一丸となって~

眼鏡とオタクとスケートボード

著者:岡田晋




眼鏡とオタクとスケートボード第13章 ~仲間と一丸となって~


「よっしゃ! 読み通り! 俺等有利だぞ!!」
ローカル線を乗り継ぎ長いトンネルを抜けると、眼下に広がった河川敷に設置された大会会場のセクションが僕らの目に飛び込んできた。電車の窓にへばりつきその光景に食い入る等々力ローカルに向いトミーがそう叫んだ。

等々力公園にお手製のセクションを作って以降、僕らはさらに高いモチベーションでスケートと向かい合い、確実にそのスキルを向上させていた。

ちょうどそんな頃だった。AJSA夏のビックコンテストが神奈川県二俣川で開催される事を知った僕らは、トミーの今後の大会を予測して作ったセクションとそこで人知れずスキルに磨きをかけた自分達の実力を試すため、等々力ローカル全員でそのコンテストに出場する事を決めたのだった。

武蔵小杉の駅から等々力ローカル総勢8人で向う今回のコンテスト。それは、僕にとっても出発から明らかに今までの大会出場とは違っていた。等々力ローカルと出会うまで、僕は常に1人で大会会場に向い、多くてもビビか尚が同行するだけで、後は徹くんや赤地くんが会場に居る事を願うしか無い、とても孤独な戦いだった。しかし、今回は共に戦う仲間がこんなにもたくさん居る。そしてその誰もが今回の大会を目指し準備し、皆同じモチベーションでコンテストに向かおうとしているのだ。

車中、僕らはそんな今までに感じた事のないわくわくと同時に、果たしてトミーの読み通り、等々力で制作し必死で練習をしたフラットバンクが本当に日本の大会にも取り入れられているのか? と言う、言い知れぬ不安を抱いたまま、はしゃぎつつも何処か落ち着かない様子で会場へと向かっていた。

そして、そんな緊張は二俣川の駅がひとつ、またひとつと近づくにつれ、みんなの表情にもあからさまなまでに表れ始めた。

「おっ、おい! 見えて来たぞ!!」
長いトンネルを抜け、外を落ち着かない表情で注視していたエイキチが声を上げた。

「うわ~~!!」

僕らの前に現れたのは間違いなく、今まで経験したどの大会よりも大きな規模の大会会場だった。そして、驚く間もなく、すぐさま僕らは設置されたセクションを電車の窓から隅々まで凝視した。

「よっしゃ! 読み通り! 俺等有利だぞ!!」
トミーの叫び声と同時に僕らはセクションの中にフラットバンクが2つ設置されている事を確認した。

大会会場のセクションはそれ以外にもほんの少しだけアールの入った3面バンクtoバンク等、まさにトミーの読み通りかなりアメリカのコンテストの流れを汲んだストリート向けセクションになっていた。

僕らは、その状況にやる気とテンションが一気に高まり、はやる気持ちを抑えつつ駅を降りると、必要な飲み物だけを急いでコンビニで仕入れ会場へと猛プッシュで向かった。

「おっ、おい! 奥見てみろよ!!」
会場に着くとさらに大きな衝撃が僕らを襲った。なんと電車から見えていたのは本番用のセクションで、奥には本番用のセクションと全く同じ練習用のセクションが同じ配置で設置されていたのだ。

「す、すげ~~......。」
僕の記憶が正しければ、大会用のパークと練習用のパークがこれだけの規模で設置されたコンテストは後にも先にもこのコンテスト以外見た事がない。

「お~い、トミー! 晋! 早くエントリー済ませろ~!!」
あまりの会場の規模にあっけに取られていると本部のテントから僕らに気付いたチームマネージャーの是石くんが嬉しそうに向かってきた。

「おい! どうだよ!? このセクション! かなりストリート向けだからお前等2人有利なんじゃね~の? 期待してんぜ~~!」

挨拶もままならぬまま、是石くんはニヤニヤしながら俺等の肩を抱くとそう言ってまたテントの中へと戻って行った。

そう、僕にとってこの大会はP.I.C.からBlack Labelのスポンサーを受ける様になってから初めて出場するコンテストでもあった。そして是石くんもまたそんな僕の気持ちを気遣って会場入りすぐに声を掛けてくれたのだろう。

今回の大会はやはり多くの事が今までの大会と違っていた。共に戦うローカルの仲間に同じスポンサーの先輩でもあるトミー、そしてチームマネージャーの是石くん。気が付けばたくさんの味方が会場に居た。これもまた、代理店スポンサーが付くと言う事の変化なのかと感じつつ、僕の大会に臨む気持ちも今までのものとは比べ物にならない程、リラックスしたものとなっていた。

そんな思いを胸に秘め、僕はトミーとエントリーを済ませるとテントの一番近い場所に陣取り、すぐさま練習を開始した。

ひとつひとつのセクションを確かめる様に一通り流した後は、もうやりたい様に散らかすだけだ。しかも、今回のセクションの一部は日々等々力で滑り慣れた物とさほど変わらないうえに、練習する仲間もいつものメンツだ。とにかく僕らは等々力で滑るのと同じテンションで練習を心から楽しんだ。

「うお~! やべ~~それ! 俺も~~!!」
そんな最中、僕がヒップでバックサイド180のバックフリップに挑戦し乗りゴケしたと同時に信じられない程のテンションと叫び声を上げたスケーターが後ろから突っ込んでくるのが見えた。

そのスケーターは身長が高く、僕よりも年上ではち切れんばかりのテンションと笑顔で僕のすぐ後を追う様にセクションに入ると僕と同じ技をトライし思いっきりぶちコケた。

「えっ、え~~!!」
あまりの突然の出来事と彼のテンションにビックリしていると、ぶちコケたそのスケーターはさらにテンションを上げ、笑顔全開で僕のところに近づいてきた。

「等々力に居る上手いスケーターって君の事だよね!」
今まで何処のスポットに行っても陰口を叩かれる事や眼鏡をコソコソ馬鹿にされる事はあったが、こんなにもオープンに僕の存在を知っている人に声を掛けられた事が無かった僕は、まさかの展開にビックリし等々力ローカルである事を頷く事で伝えるのが精一杯だった。

「やっぱり! 岡田晋でしょ!? 会いたかったんだよ~。今の技凄いね! 凄いね! 俺もやりたいから一緒にトライしようよ~~!!」
彼は、僕の名前を知ってるどころか会いたかったとまで言ってくれた。しかし、とにかく僕の前に突然出現してから、そこまでの展開があまりにも早く、さらにその勢いは等々力ローカルのそれを遥かに上回るものだった事に僕は衝撃を隠せなかった。

(す、凄い、、こんなオープンと言うか、勢いのスケーターが居るんだ。)

そして、彼の全身からはち切れんばかりに発するスケボーが大好きだ! と言うバイブスは決して嫌なものでは無く、むしろ不思議とこっちのテンションまで巻き込んで上げてくれる素敵なものだった。

「うっ、うん!」
僕は頷くと練習時間が終わるまでそのスケーターと夢中になって限界ギリギリを楽しむセッションをした。

そう、この日本人離れしたパッションを全身から放つスケーターこそ、横浜を代表するプロスケーターで現在も尚、アイコン的な存在で多くのスケーターから愛されている、イーさんこと石澤彰くんだった。

そんな、大会とは思えない程、充実した練習時間はあっと言う間に過ぎ、遂に本番用のセクションでは予選が始まった。

僕らはテント横に陣取った一番見渡しの良い場所に座り込むと、トミーと肩を並べ、出走するひとりひとりを2人で分析しながら自分達のルーティンを確かめあった。やはり名前のあるスケーターは皆、アールを使いこなしレベルの高いトリックを繰り出していたが、フラットバンクやバンクtoバンクに関して言えばテクニカルなトリックのレベルとメイク率は正直僕らの方が上に見えた。

予選が進むにつれ、少しずつ等々力ローカルの出番がやってきたが、僕らは皆、スタートにはみんなで仲間の背中を押し、ラン終わりには全力を尽くした仲間を囲み讃えた。僕らは文字通り心から大会を楽しんでいた。仲間の応援を受け、全力を出し、後はまた仲間の元に戻れば良いだけだ。もう僕の中に大会に対する恐れはなくなっていた。

結局、予選はいくつかのトリックを失敗してしまったもののフラットバンクでのテクニカルなトリックでは他のスケーターには無いスキルを発揮し、予選を3位で通過する事が出来た。僕はその結果に今までには無い確かな手応えを感じていた。

(上手くいけば優勝が狙えるかもしれない!)

トミーも流石の安定感とフラットバンクでの回し技を決め6位通過。2人ともまだまだ上位を狙えるところにいた。

それ以外の等々力ローカルは残念ながら予選落ちしてしまったが、それでも彼らの表情に曇りは無かった。それぞれ自分の順位に一喜一憂しつつも、僕とトミーが予選通過をした事を喜び、等々力ローカルである僕とトミーが良い成績を残す事を自分の事の様に心から応援してくれた。そう、まだ等々力ローカルの戦いは終わっていないのだ。

1時間程のインターバルを置いて、いよいよ決勝が始まった。何時もなら自分の出番が近づくにつれ、胃の押し上げられる様な緊張感に襲われるのだが、その日は不思議と予選を経た開放感と手応えが僕の気持ちを落ち着かせていた。

「さ~次の出走は本日最年少! 期待の若手! 岡田晋選手です!!」

僕は落ち着いて立ち上がり、背中を押す仲間達に答えると静かにスタートするポイントに向かった。

「準備は良いですか~? 泣いても笑っても最後の勝負! それでは岡田晋選手スタート!!」

スタートの合図と共に僕は、予選のルーティンのさらにひとつ上のレベルのトリックで片っ端からセクションに突っ込んでいった。

ヒップを越え、フラットバンクでノーリーハーフキャブヒール。フラットトリックを挟んで反対側のバンクでトレフリップ。その時、たぶん最もテクニカルなトリックを前半に連発した僕は完全に会場の空気を自分のものにしていた。そして後半、「これが決まれば!」と狙っていたルーティンの見せ場、バンクtoバンクでのバリアルヒールを僕は集中力を途切れさせる事無く完璧にメイクした。

この瞬間、残り10秒をミス無くこなせば僕は確実に優勝に手が届くところまで到達していた。しかし、会場には観客だけでなく予選落ちしたスケーターや上手い人間を良く思わずこそくな手段で邪魔をしてくる人間が必ずいるものだ。

それは、バンクtoバンクでバリアルヒールをメイクし集中力もピークのまま、向いにあるクォーターでキックフリップをしようとテールを叩いた瞬間に起きた。

クォーターの向こう側に腕組みをして立つ2人組のスケーターの1人がコーピングから飛び出した瞬間、僕に向って舌打ちをしこう言った。

「チッ! なんだよ眼鏡面して調子乗ってんじゃね~よ!!」

空中に飛び出しフリップ足を蹴り出しながら僕はその悪意に満ちた声を真っ正面から受けてしまった。瞬く間に今までの集中力は途切れ、僕の体温は一気に悪魔の声に奪われた。空中でスローモーションになりながら回転するデッキをぼんやり眺めつつ、僕はその声に心をへし折られてしまった。

だが普段なら、そのまま悪意に飲み込まれ奴らの作戦通り空中分解してしまう僕がその時、最後の最後で自分でも驚く踏ん張りを見せた。完全に集中力が切れもうろうとしながらも気が付けばしっかりとデッキの上に着地し完璧にメイクしていたのだ。

周りで観戦している人には絶対に気が付かない、僕の中だけで起きた一瞬の戦い。僕はその戦いに首の皮一枚ギリギリのところで勝利したのだ。地面からデッキを通し伝わる振動が足から全身を駆け巡った。この瞬間、僕は僕自身に勝ったのだ。

その後、最後の5秒を完璧にこなし、僕はノーミスで決勝のランを終えた。

初めて浴びるたくさんの拍手の中、僕は今までに感じた事の無いとてつもない高揚感に包まれていた。そしてテントの横では僕の勝利を確信した等々力ローカルのみんながはち切れんばかりの喜びを身体全身で表し飛び回っているのが見えた。

しばらくの間、僕らはそんな興奮にただただ酔いしれていた。チームマネージャーの是石くんも僕の健闘を讃えつつも「表彰式まで喜ぶのは早いぞ!」とだけ言い喜びを必死で隠しテントに戻って行った。もちろん、僕らも優勝がまだ確定していない事は十分わかっていた。でもその時、僕らの中にあったのは等々力ローカルの実力を決勝で証明出来たと言う興奮と喜びだった。

「え~、それでは只今より、AJSA二俣川コンテストの表彰式を始めます。みなさんテントの前にお集まり下さい!」

決勝終了後、遂に表彰式のアナウンスが会場に流れた。今だ興奮状態の僕らははやる気持ちを抑えつつテントの前に集まった。決勝の滑りは間違いなく僕らのスキルを証明する内容だったが、やはり是石くんの言う通り優勝して初めて、誰もが認める結果として今後のリザルトに残っていく事は間違いなかった。2位と優勝は大きく違う。まだ優勝を経験した事の無い僕は今まで何度もその悔しさを味わってきた。

(ここまで来たら優勝と言う結果が欲しい!)

その思いは、興奮する等々力ローカルも是石くんもみな同じ気持ちだった。決勝の順位が発表され始めると僕らの中にもそんな期待と緊張が流れ始めた。

「今回のコンテスト、8位からが入賞者となります。それでは発表していきましょう!」

8位から順に発表が開始され、7位でトミーの名前が呼ばれた。トミーは決勝で調子が上がらず順位をひとつ落としてしまったものの、しっかりと入賞を果たした。

それから、さらに6位、5位と発表が進んだが僕の名前は呼ばれなかった。4位、そしてトロフィーが授与される3位にも。

「来てるぞ! 晋!!」
トミーや等々力ローカルがにわかにざわめき始めた。

「さ~! 遂に2位の発表です!! 名前の呼ばれていない選手は高橋タケシ選手と岡田晋選手! つまり次の発表で優勝者が決定致します!!」

僕らはみんな一斉にツバを飲み込んだ。

(来てくれ! 来い! 来い!!)

「2位入賞は高橋タケシ選手! と言う事は第一回AJSA二俣川ビックコンテスト優勝者は、なんとエントリー最年少の岡田晋選手です!!」

「やっ、やった~~!!」

そのアナウンスに等々力ローカル全員が飛び上がった。嬉しさと安堵感そして初めての優勝と言う体験にどうして良いか分からない僕を、みんなが袋だたきの様に祝福するとテントの前へと半ば強引に押し出してくれた。

「優勝おめでとう!」

簡易的に作られた表彰台でMCの人からそう言われると、持ちきれない程の商品と僕の身長の半分以上あるトロフィーが手渡された。そして僕は初めて表彰台の真ん中に立った。そこからの見えたのは、大会に出場し始めてからずっと憧れ、目指し、やっとの思いで手に入れた、勝者のみが見る事を許される最高の景色だった。

表彰式が終わり、たくさんの商品を等々力ローカルとシェアしていると、是石くんが今度は喜びを我慢する事無く近づいてきた。

「晋、トミーよくやった! 2人がいい結果を残して俺も鼻が高いぞ! 2人をライダーにした俺の目に狂いは無かったな!」

そう言うと是石くんはガハハハハ! と高笑いをし、
「気をつけて帰れよ。お疲れ~!」
と短い挨拶だけを残しサクっとまたテントに戻って行った。

「いや~最高の一日だったな~!」
イーさんや会場で出会ったみんなに挨拶し、会場を後にした帰り道。まだ西日が強く差し込む電車の中で、僕らは今日起きたたくさんの出来事を振り返りながらなんとも言えない充足感に包まれていた。

スケートを始め、プロに憧れ、スポンサーをゲットし、仲間と切磋琢磨しながら、やっとの思いで掴んだ今回の優勝。それは間違いなく等々力ローカル全員で掴み取った優勝だった。誰も言葉にはしなかったが帰りの電車の中僕らの中にあったのはそんな充足感だった、そしてこの大会を経て等々力ローカルの結束は今まで以上に強固なものとなっていた。大きすぎるトロフィーを皆で囲み、誰もがトミーに負けない程のニヤニヤ面を隠す事無く家路に着いた。

その後、この優勝をきっかけに僕は少しずつだが確実にその名前をスケートシーンに広げていく事になる。それと同時に等々力公園もちょうどこの優勝辺りから多くのスケーターに知れ渡り始め、ついに等々力ローカルとあのNewtypeが急接近する事となる。

スケートを始めて1年と少し、仲間と一丸となり掴み取った僕の初優勝のエピソードである。

つづく



※13章以外のコラムはこちら

眼鏡とオタクとスケートボード第1章~幼少期~・~第2章スケートボードとの出会い~

眼鏡とオタクとスケートボード第3章~眼鏡(オオカミ)少年

眼鏡とオタクとスケートボード第4章~本物のスケボーと大矢兄弟

眼鏡とオタクとスケートボード第5章~ローカル意識とプロスケーター~

眼鏡とオタクとスケートボード第6章〜ギブスと眼鏡のシンパシー〜

眼鏡とオタクとスケートボード第7章〜初めての大会〜

眼鏡とオタクとスケートボード第8章〜大切な事とNEWTYPEの衝撃〜

眼鏡とオタクとスケートボード第9章〜初めてのスポンサーとビデオ撮り〜

眼鏡とオタクとスケートボード第10章 〜目まぐるしく進む展開〜

眼鏡とオタクとスケートボード第11章 〜少しでも高いレベルへ〜

眼鏡とオタクとスケートボード第12章 ~等々力ローカルと究極の裏技~

眼鏡とオタクとスケートボード第14章 ~ついにNEWTYPEへ~

眼鏡とオタクとスケートボード第15章 ~海の向こうから来た男~

眼鏡とオタクとスケートボード第16章 ~一変した環境と注目の裏側~

眼鏡とオタクとスケートボード第17章 ~希望の光~


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